ALEXANDER CALDER

アレキサンダー・カルダーを最初に見たのは30年以上も前の話になるがニューヨークのアッパーイーストサイドにあったマルセル・ブロイヤーが建てた重厚なコンクリートの建物にあったホイットニー美術館だった。

その後、ホイットニー美術館は今のダウンタウンに引っ越してアップタウンの建物は2015年にメトロポリタン美術館系のメット・ブロイヤー美術館に変わってしまったが2020年にはそれも閉館して今後はフリックコレクションが本館工事中の借りスペースとして使うらしい。

こう書いていると時代の経過を感じるが確かに僕がカルダーをホイットニーで初めて見てからそれだけの月日が流れたのだ。

僕が見たカルダーの作品はホイットニー美術館の1階入り口脇に展示してあって入館しなくても自由に見れるような位置にあった。

2メートルほどのガラスケースの中に展示されていたのはワイヤーで作られたミニチュアのサーカステントの世界だった。

ワイヤー彫刻とでも呼ぶべきか、ワイヤーを巧みに折り曲げて作られた綱渡りや踊り子や猛獣使いみたいなサーカス定番の登場人物達が小さなサーカスを繰り広げている様子を見ていると大人でも童心に帰れるようなファンタジーある作品だった。

 アメリカの彫刻家であり現代美術家のアレキサンダー・カルダーといえば最も有名なのは動く彫刻と呼ばれるモビールの発明である。

今でもアートフェアに行ってカルダーのモビールを見ないことはまずないほどに人気だしそれゆえに価格も桁違いに高額だがそこもまたお金持ちのコレクター魂に火をつけるのだろう。

動く彫刻「モビール」とは何かといえば1930年代からカルダーが制作し始めた一連の主に鉄製の彫刻のシリーズである。

それらは天井から吊るされたり地上に置かれる彫刻であるが全体やその一部が自由に動く仕組みになっていて作品自体もそうだがその動きもまた作品という新しい発想の彫刻だ。

斬新でエレガントな形と見事な色彩感覚で色を施されたモビールは絶妙な形態とバランスで動く美しい彫刻として画期的だった。

欧米の天井の高い部屋に吊るされたカルダーのエレガントなモビールが微かな室内の空気の流れでゆっくりと動いている様子を眺めるといった空間はかなり贅沢であり憧れである。

カルダーは色彩の魔術師とも呼ばれたほど色使いが素晴らしかったがそれはモビール作品にはもちろん彼の残した多くの色鮮やかな水彩画にも見て取れる。

彼は常に直感で制作をしたいた作家のように感じるのだが、真っ赤な色でなんの迷いもなく大胆に紙に一筆で線を描くように彫刻が動く姿が彼には直感的に見えていたのかもしれない。

カルダーはこうして直感に導かれるままにモビールからワイヤー彫刻まで様々な作品を作ったが彼の作品を見ていると「物を作る」という基本的だが忘れてはならない大切な基本をいつも思い起こさせる。

子供が無我夢中でワイヤーをこねくり回して人の形を作って喜ぶような「物を作る」ことへの純粋な喜びに似た感覚を彼の作品は宿していると感じるのだ。

表現する喜び、ものを作る喜び、そんな素朴だけれど最も大切な感情を彼の作品から感じ取れるからこそ彼の作品は今も世界中の多くの人に愛されるのではないだろうか。

ALEXANDER CALDER