YUSHI SUGA
神宮前にあるギャラリー、MAHO KUBOTA GALLERYにて菅雄嗣個展「liminal」が開催されました。
「liminal 」は「境界」や「域値」を示す言葉ですが、コロナ渦においてはこの言葉から「liminal space」というミームが派生しました。
このミームは現実と非現実の間を行き来するような不可思議な空間を指し示しています。
例えば、本来であれば大勢の人が行き交う空港や駅に人が不在の状態、またはかつて人の営みがあったであろう建築物が捨て去られ廃墟となった状況、確かに存在しているものの実際にアクセスすることは難しい地下施設等がそれにあたります。
あるいは、そういった場所を模した想像上の空間も「liminal space」と捉えてもよいのではないでしょうか。
かねてより人は不在の空間や闇、廃墟に美を見出してきましたが、それを補完する形で生まれた新しいミームに魅了された菅雄嗣は、不確かで非現実的な光景を主題に本展の新作に取り組んでいます。
この個展の新作の中には、画面をまず鏡面に磨き上げ、そこにモノクロームの絵具を加え、次に絵具を削りとり描画してゆく菅の代表的な手法のペインティングがある一方で、さらに進化した形態として削り取った絵具をタブローの別のスペースに移動し構成してゆく試みも見られます。
アクセスが難しい場所、或いは存在しないものの質感を求め新作に向かい合う中、アーティストは「liminal」という言葉そのものを描く実践にも取り組んでいます。
さらにはコンピュータ上で仮想空間を作り、実際には存在し得ない世界を描く初めての挑戦も見られます。
生成型AIが急速に一般化する2023年において、人のイマジネーションの質量はどのような手触りを残すことができるのでしょうか。
現代アートにおける鑑賞の魅力のひとつである、作品と対峙した時に感じるある種の物質的違和感。鑑賞者の知覚を揺さぶる一方で、静謐な存在感を持って立ち上がる作品群が素晴らしい輝きを見せています。





