HITSUDA NOBUYA

駒込にあるギャラリー、KAYOKOYUKIにて、櫃田伸也の個展が開催されました。

この展覧会では、1990年代以降のペインティング、ドローイング作品に加え、愛知県立芸術大学から東京藝術大学へと引き継がれ研究室で使用されていた作業板に、新たに手を加えた作品が展示されました。

櫃田伸也は、山や池、空き地、ブロック壁、金網、潰れた空缶、草花などの身近な風景を、斜線や直線、円形、三角形、矩形といった幾何学的な形態と鮮やかで深みのある色彩を用いて再構成し、遠景と近景を圧縮させた独自の空間を作り出します。

そこにはごく日常的な風景が映し出されますが、過去と現在が交差し絶え間なく流転するようななんとも不思議な風景でもあります。

1941年東京都大田区に生まれ、戦後のまだ地面の土が露出したままの東京で少年時代を送った櫃田伸也は、よく多摩川の土手に上がって、そこから見える景色を眺めて過ごしていたといいます。

台風や洪水によってがらりと変わる多摩川の表情、そして高度成長期に伴って変化していく東京の景色を眺め続けたことは、櫃田伸也の絵画の原風景となっています。

また櫃田伸也は、古今東西の美術作品はもちろん、映画や演劇、建築などを熱心に見て吸収していきました。

街を歩き回って「見ること」を積み重ねた経験が、豊かな風景を構築する素地なっています。

過去から現在、あちらこちらの風景の断片を寄り集めることによって立ち上がる「生き物のように姿を変えながらゆったりとそこにある」風景は、櫃田伸也が「通り過ぎた風景」であると同時に、わたしたちが「通り過ぎた風景」なのです。

KAYOKOYUKI