KYOTOGRAPHIE2020

アートフェアやギャラリー巡りなどを紹介するTRAVELING FOR ART。今回は2020年の京都から。

今回は10月18日まで京都で開催されていた「KYOTOGRAPHIE 2020」を紹介します。京都の街を舞台に街にある建物を使ってその中に展示会場を設営し写真や映像作品などを展示する京都の街を回る写真作品中心のアートフェアも今年で8回目を迎えました。毎回異なるテーマが設定されるのですが今回は「VISION」をテーマに掲げ多様な視点により作られた「VISION」を集めたフェアとなりました。コロナで一変した世の中。世界を変えるにはまず自分たちの「VISION」を変えなければならない、一人一人が問題を「自分ごと」として考えることができた時に世界は必ず変わるのだというのが今回の「KYOTOGRAPHIE 2020」のステートメントです。これは京都府旧本館にもうけられたCHANEL NEXUS HALLで展示があったピェール=エリィ・ド・ピブラックの写真展。美しい写真はとにかく素晴らしかったです。

作品はピェール=エリィ・ド・ピブラックが2013年から2015年にかけてパリのオペラ座の裏舞台に密着して「In Situ」という三部作を撮影したものです。ダンサーたちの中に入り込み歌劇場で生活を共有しながらあらゆる瞬間を撮影しました。

壮大でまるで古典的な絵画のような風格のある美しい写真の数々は圧巻で思わず時間を忘れて見とれてしまうほどですがまるでルネッサンス絵画のような豊かな質感の写真でした。

 「本来あるべき場所で」という意味の「In Situ」のタイトル通りバックステージやリハーサルの風景などダンサーたちの普段の生々しい姿を無音のカメラと特殊なレンズで撮影したそうです。

 次に向かったのはフランスの写真家マリー・リエスの展示です。夫の盲目の親友の軌跡をたどり親友が生前に通っていたフランス盲学校の生徒たちのレポートを撮影しました。

展示方法にも工夫が凝らされていて盲目の人の気持ちを感じるためにと入ってすぐには真っ暗な部屋があり手摺を頼りに進んで会場に入ると日仏の盲目者コミュニティーと共同で制作した「触る」写真も体験できるようになっていました。

 盲学校の生徒の写真もあって会場構成が非常によく考えられていて作家の伝えたいメッセージが伝わってくるような展示となっていました。

2階の畳の大部屋ではマリー・エリスが撮影した盲人学校の生徒のドキュメンタリー映画も上映されていました。

 

次の展示はセネガル出身のアーティスト、オマー・ヴィクター・ディオブの作品展でした。オマーはアフリカ社会のライフスタイルの多様性を本質的に捉える手段として写真とデザインで活動し、2011年にマリのバマコで開催された写真ビエンナーレにも取り上げられた作家です。

今回オマーは去年の秋に1ヶ月ほど京都に滞在し鴨川にほど近い商店街に働く店主たちをポートレイトに収めました。彼らが売る商品などと組み合わせたそれらのポートレイトを垂れ幕にして商店街のアーケードに展示するという地域を巻き込んだプロジェクトです。

 また、欧米で活躍したアフリカ出身の歴史上の偉人と欧州リーグなどで活躍すアフリカ出身のサッカープレイヤーを自身と重ねたポートレート作品「Diaspora」も京都府旧本館にて展示発表しました。

 

 次の作家、オランダ人アーティストのマリアン・ティーウェンは世界中の都市で廃墟と化した建物の断片を収集しインスタレーションを作り撮影します。「Destroyed House(破壊された家)」というタイトルにふさわしく今回は京都に3ヶ月ほど滞在して伝統的な木造家屋の「京町家」の内部だけを破壊して再構築しました。

 「京町家」2軒を使い解体した素材を組み直したり積み上げて新たな建造物に仕立て上げます。くらい会場にインスタレーションが浮かび上がります。

 破壊と再構築の危ういバランス、同じ空間ががらりと様変わりするインスタレーションは圧巻でしたが最後には写真に収めて後世に残すのだそうです。

続いては今回のフェアでも人気ナンバーワンと言っていい写真展です。片山真理は自分自身を被写体に写真を撮り続けるアーティストです。

9歳の時に先天性の疾患で両足を切断した片山真理は自らの身体を模した手縫いのオブジェを起点としたセルフポートレイトで知られる作家、とても勇気のある生きることについて考えさせられる前向きな作品です。

近年は自身の体そのものをモチーフとする作品や群馬県にほど近い足尾銅山を取材した作品など表現の幅も広がって注目も増してきています。

 

最後にご紹介するのは世界最古のシャンパーニュメゾンとして知られるメゾンルイナールが「PARIS PHOTO」で新進作家に贈る「Curiosa sector」の受賞者の中から「メゾン ルイナールアワード2019」年を授与されたエルサ・レディエの作品の展示です。

記録的な熱波の中、写真家としてその芸術的なビジョンでレイヨグラフ(カメラを使わず印画紙の上に物体を置いて光を焼き付ける手法)や光を実験的に捉える手法を織り交ぜて見事な作品を生み出します。

光を用いた12点の作品は人々と自然との本質的な関係性を変えつつある気候変動という問題について考えさせられます。

 美しい写真と会場のカラースクリーンを組み合わせた展示方法もとても見事で作家の美意識の高さとセンスの良さを感じました。

KYOTOGURAPHIE