SCAI PIRAMIDE

六本木にあるSCAI PIRAMIDEにてドイツ系ユダヤ人の詩人パウル・ツェランの詩「刻々」の一節「至るところで 心を集めよ 立っていよ」を展覧会タイトルの展覧会が開催されました。

この展覧会は、「アイデンティティの葛藤と獲得」「不在の存在」「ここではないどこかを想像する」など、ここ数年、パンデミックや紛争が人々の営みや交流に困難を強いるなかで、あらためて我々ひとりひとりの立っているところを確認し、他者を想像することで知り得る価値観やそこから導かれる社会の多様な在り方、ひいては我々ひとりひとりの人間そのものの在り方について省察を試みようとする試みです。

9歳のときに上海から青森県弘前市へ移住をした潘逸舟の作品制作は、自身の社会的アイデンティティへの問いかけからはじまります。

高校時代に初めて発表をした「My Star」は、身につけているものをひとつずつ大地に並べ、星を描いてゆくパフォーマンスの様子を収めた映像作品です。

潘逸舟は衣服を脱いでいくことで、自身を社会的に規定された立場から解放し、そこに改めて自身の身体を重ねることで「私とは誰か」を再考しています。

また、今回は、いまも上海に住む祖母の営みから、それにまつわる素材を用いて、中国に暮らす女性たちの社会的・歴史的な境遇や文化、労働に言及する小作品も新たに発表されました。

佐々木健は、2021年の夏、かつて祖父母が住んでいた家を「五味家(The Kamakura Project)」として公開し、自身にとって8年ぶりとなる個展「合流点」を開催しました。

この展覧会は、知的障害を伴う自閉症の兄をもつ佐々木が、相模原障害者施設殺傷事件に衝撃を受け、家屋と庭と絵画によって、家族の歴史と自身のおかれた立場や境遇を告白し、「芸術」や「福祉」が隠匿する社会構造の問題にリーチし、多くの反響をよびました。

本展では、この「合流点」でも展示された作家の祖母と母と2人の叔母が共同で刺繍をしたテーブルクロスを描いた絵画などが展示されました。

碓井ゆいもまた女性や労働といった視点から歴史的かつ社会的批評性を持った作品を発表している作家です。

香水ボトルを模した「空(から)の名前」で小さなガラスボトルに貼られた名前は、太平洋戦争中に旧日本軍の「従軍慰安婦」とされた女性たちが慰安所で名付けられた源氏名です。

碓井ゆいは、この自民族中心的な思考によって理想の女性像の強要が行なわれていた歴史的な事実から、彼女たちや我々の社会のなかにいまなお続いているその痛みについて想いを巡らせます。

アピチャッポン・ウィーラセタクンは「名前を変えることで幸せになれる」というタイの言い伝えにならって、新たに「水(Nach)」という名前を手にいれた女性のもとを訪れ撮影した映像作品「Cactus River」を出品します。

ジェームス・リー・バイヤースは、独自の神秘思想や瞑想体験から、自身の理想とする様式美を求め続けたコンセプチュアルな作家です。

現代の作家たちが、切実に取り組んできた作品や活動をご見ることで、ひとりひとりが多様な社会と人間の在り方を想像し、それぞれの真理に接近することができるのです。

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