ABOUT HENRI ROUSSEAU

ずいぶん以前の話だが世田谷美術館でアンリ・ルソーと素朴派やアウトサイダー達の作品展が開催されていた。

ルソーの絵は中学の美術の教科書なんかに絶対にあるひとつで、僕の時は砂漠で眠るジプシーにライオンが近寄る不思議な絵があったのを覚えている。

その後、この絵の本物にニューヨーク近代美術館(MOMA)で出会うのだがこの不思議な絵の前には沢山の人が集まる人気ぶりだった。

もう一枚、MOMAにはジャングルの絵もあるがルソーで有名なのがこうしたジャングルとか異国の不思議な情景を描いた絵で、眺めていると彼の作り出す独特の世界に迷い込めるような魅力がある。

パリの税関に20年以上務めていたルソーは「税官史ルソー」とも呼ばれそのファンは多くピカソもルソーの作品をコレクションしていた。

幻想的というか夢の世界というか、彼の描く異国は実際には彼の頭の中以外のどこにも存在しない。

日々異国からパリに入って来るエキゾチックで不思議な植物や動物、様々な品々を税官史として検閲していた彼は、その「不思議なもの」に異国に行った人から聞いた話などを織り交ぜて作り上げた想像上の異国を完成させ絵に描いたのだ。

かなり適当に都合良く想像されて作り上げられたこのルソーの異国はしかしながらとても魅力的で彼独自の幻想的な世界なのだった。

ルソーを語る時、その絵画の手法も重要だが、世田谷美術館での展示がいわゆる素朴派やアウトサイダー達と共に語られたようにルソーは素朴派というような位置付けの作家になっている。

正式な絵画の教育を受けず、いわゆる独学で描いたような作家はヨーロッパでは画家としては正式に認められることはなかったのかもしれない。

日本でもそうだが画家になるには画壇に所属して誰それの弟子になってというようなしきたりみたいなものが強い世界なのだろう。

ルソーの絵画は独学であり言ってしまえば日曜画家であり絵は趣味の域というようなスタンスの作家と同じといえる。

しかし、彼自身はかなりの歳になってから趣味的に独学で絵を始めたにもかかわらず、自分は相当凄い画家だと豪語していたと聞いた事がある。

そして時代が過ぎてみれば彼は正しかったのである。

ルソーは作品が美術館に収蔵される程の凄い画家だったのだ。

彼の魅力的な絵は一度見たら忘れない何かを持っているしテクニックだって素朴とか独学とか言われても僕はたまらなく好きだ。

ジャングルを写実的に描ける画家はきっと五万といるがルソーのあの摩訶不思議なジャングルは彼にしか描けない。

好きなものを好きなように描くのが自分にとっての一番うまい絵なのだ。

学生だった頃に絵に点数をつけるのはおかしい気がしていたが教育の科目になっている時点で他と差の出る何らかの評価をしなければならないとはいえ、根本的にはおかしな話である。

ルソーは自分は偉大な画家であると豪語して毎週末にコツコツと想像上のジャングルを楽しみながら描いていたに違いない。

「どんな絵でも点数をつけるならすべて百点満天!」きっとルソーだったらそう言うような気がする。

花も咲き乱れ果実も実っているジャングルの中、ゾウやライオン、鳥がうろうろする中、ソファの上に横たわるヌードの美女と縦笛を吹く不思議な男。

荒れ果てた戦場を果敢に馬に跨り左手にたいまつ、右手に剣を持って走り抜ける白いドレスの少女。たいまつの黒い煙が空に続く表現など面白い。

巨大な花が咲き乱れバナナのような果物もなる木のあるジャングルの真ん中に陣取っているのはヒョウの頭を丸かじり中のライオン。残酷なシーンのはずだがどこか可愛らしい。

HENRY ROUSSEAU