NOT ART BUT TREASURE VOL.1

 美術ジャーナリストの鈴木芳雄氏がアートなお宝を紹介する
「作品じゃないけどお宝です」
VOL.1 は「写真がデジタルデータになる以前」です。

 

「ジェニー・ホルツァー展」メディアプレビュー(プレス内覧会)の招待カード。

1980年代の終わり頃、ニューヨークのアート最新情報を、このウェブサイト「ARTRANDOM」を主宰している田辺良太さんに送ってもらっていた。

プレス内覧会の招待カードの裏面。

 

当時、田辺さんはアンディ・ウォーホルの最後のアシスタントだったベンジャミン・リウさんと一緒に、ニューヨークパブリックライブラリーの近くに小さなオフィスを構えて、日本の雑誌や企業向けにニューヨークのニュースを配信したり、ニューヨークを訪れるクライアントのアテンドをしたりしていた。

僕はマガジンハウスのエル・ジャポン編集部(当時『ELLE JAPON』はマガジンハウスが発行していた。現在の発行元はハースト婦人画報社)にいて、海外ニュースのページを担当していた。

定例的に記事を送ってもらったり、なにか特集に関連して、ニューヨークの事情を聞いたりしていた。

まだ、インターネットはなかったから最新事情を聞くには、それが一番早かった。

メールもないので、知りたいことや頼みたいことがあると、ファクスを送る。

スカイプやズームとかも当然無いし、電話代は高いから、ファクスが最も有効。

しかも時差があるので送っておけば翌日返信が届いている。

必要な記事のデータや写真、資料などはファクスで送れないので、OCSやFedExのドキュメントとして東京に届くのだ。

 

広報用写真。1986年、タイムズスクエアで発表した作品の写真。

写真が画像データとしてネット経由で送られてくるのは想像もしていなかった。そのかわり、アメリカで配られたプレスリリースや掲載用の写真の現物が僕の手元に届く。

実際に誌面に使った写真は編集部でファイルされ保存されていくが使わなかったものや原稿を書くときに使ったリリースは僕が保管することになる。

その中で思い入れのあるものは捨てられず、今も持っている。

 

40th Street, 5th Avenueにあった田辺さんのオフィスに送られてきたもの。これが東京に転送された。

たとえば、このグッゲンハイム美術館でのジェニー・ホルツァー展のプレス用広報写真。

モノクロだったりするがそれがまたニュース用として生々しい。

ジェニー・ホルツァーは言葉を使ったアートの先駆者の一人。

日本でも水戸芸術館現代美術ギャラリーや越後妻有「大地の芸術祭」などで展示を行った。

JENNY HOLZER

 

プロフィール:

鈴木芳雄|Yoshio Suzuki

編集者/美術ジャーナリスト。
明治学院大学非常勤講師。雑誌「ブルータス」元・副編集長(フクヘン)。
共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。雑誌「ブルータス」「婦人画報」「ハーパーズバザー」などに寄稿。