KAZUHITO KAWAI

 

2023年2月の4日まで天王洲アイルにあるKOTARO NUKAGAにて川井雄仁による初の個展「粒の数だけ 抱きしめて」が開催されています。

川井雄仁は1984年茨城県に生まれ、ロンドンのChelsea College of Artsで学んだ後に帰国し、会社員を経て、茨城県立陶芸大学校で作陶を学び現在は茨城県を拠点に国内外で作品を展示しています。

川井雄仁の作品の特徴は、独特な色合いと、有機的で艶かしくもグロテスクな形状です。

さまざまな色、形、あるいは極小の粒が何層にも重なり合い、結びついたものであり、それは人を根源的に捉える未分化な魅力であるエロスを漂わせます。

「器」「工芸」「アート」、など、呼び方はともかく、こうした陶芸作品を通して川井雄仁ならでは独特なユーモアを持表現にします。

川井雄仁はある一つの時代、ある一つの場所を切り口にした作品展示によって、社会とのコミュニケーションを図ることを試みます。

この展覧会、「粒の数だけ 抱きしめて」では、90年代の渋谷を参照します。

川井雄仁にとって、思春期に憧れの場所であった渋谷、そして多様な潮流を生み出した社会的なアイコンとしての「渋谷」が交差し、鑑賞者をあのころの渋谷の雑踏へと誘います。

1991年に公開された日本映画「波の数だけ抱きしめて」をオマージュした本展のタイトルは、当時の世界へのイントロダクション、あるいは川井雄仁の作家としての胸中の吐露でもあります。

一方で、90年代は、さまざまな「アイデンティティ」の問題が盛んに問われ、社会の「普通」が考え直された時代でした。

近年、「多様性を認める」と言った論調で、さまざまな「アイデンティティ」を個性として社会が「差異」を包摂する風潮がありますが、「同一性」を前提としたマジョリティ側のつくる包摂構造が全てを解決するのかということは今後の課題であると言えます。

KOTARO NUKAGA