ABOUT DAVID SALLE
1980年代、ニューヨークのアートシーンにはユニークなペインターが続々登場した。
ジャン・ミッシェル・バスキア、エリック・フィッシェル、ジュリアン・シュナーベル、フランチェスコ・クレメンテ…それぞれが独自に強烈なイメージを描き次々と話題を提供した。
ギャラリーもソノベンやリオ・キャステリといった老舗ギャラリーに加えて、メアリー・ブーンやガゴジアンといった若くて勢いのあるギャラリーが台頭して来た。そんな中で現れたアーティストの1人がデヴィッド・サーレだった。
メアリー・ブーンギャラリーで彼の絵を最初に見た時、今まで見た事のないような独特な絵を見た衝撃を受けたのを今でも覚えている。
異質なイメージの融合、イメージの上にイメージを重ねる違和感など視覚的な刺激が巧妙に施されたそれらの絵画はペインター全盛期のアートの世界でも特に勢いがあり輝いて見えた。
写真をキャンバスに投影して描かれたようなリアルなイメージが様々な手法と共にひとつの画面で完結している。
しかし、完結しているようでいるにもかかわらず、その絵が持つ不安定なイメージの世界ゆえに次の不安定な絵へと見る者を無理矢理に移行せざる得ないような不思議な感覚を抱かせる。
もしかしたら描いていたサーレ自身が描いては不安定さを増して次を描かなくてはならない衝動に駆られていたのではないか。
そうして次々に作品を生み出して行ったという経緯が作品を通して見る側に伝わるのかもしれない。
いずれにせよ、サーレの絵には大きな捉えどころのない断片のように終わりのないイメージ世界を表現し続けるといった印象があった。
その後、彼の絵は勢いを失い、しぼむように力をなくして弱い絵になってしまったが、少なくともピーク時の彼の絵には得体の知れない力が宿っていたと思う。
きっと、彼の才能は彼にもその真意が分からないようなイメージの不完全な断片を描けた事であり、彼自身がそこに意味を求め始めたとたんに面白みのない絵しか描けなくなってしまったのかもしれない。
いずれにせよ、サーレはあの時代のニューヨークが生み出した特別なペインターの1人だったと思う。
DAVID SALLE
写真を投影機でキャンバスに映し出してその上から描いたような絵の上に違う絵が重なったり荒い筆のタッチの絵が重なったりする。不安定な気持ちになるような吸い込まれるような不思議な絵だった。
かなり昔に買った作品集で既にページも割れてバラバラになりそうだが今でも繰り返し見てしまう。あの頃、なんでこんな不思議な力のある絵が描けたのか今となってはサーレ自身にもわからないのではないか。
サーレは色のセンスも抜群だった。見た瞬間に思わず息を呑むような意外性と創造性がある絵だったが、残念ながら今のサーレの絵には昔のような力がない。そう考えると最晩年はぐちゃぐちゃの絵も多かったが死ぬまでピカソはピカソらしい絵を描いたアーティストだったと思う。