DAISUKE MIYATSU
収入源は毎月の限られた給料と年末などに出るボーナスのみというサラリーマン時代に現代アートに興味を持ち買い始めて今では膨大な数の現代アートをコレクションしていることで有名なアートコレクターの宮津大輔さん。大学教授となった今でも現代アートをコレクションし続けているというが自らのコレクションを売らないことでも知られている。そんな宮津大輔さんにARTRANDOMは10項目の質問形式でインタビューを行った。現代アートをなぜコレクションし始めたのか?いいコレクションの法則などあるものなのか?など様々な質問にお答えいただいた。
まず、現在の現代アートのコレクションの総数はどのくらいか教えていただけますか?
コレクション歴27年目にして、現在400点を超えています。
現代アートを最初にコレクションしたのはいつ頃でどこが気に入って何を購入されたのですか?
30歳の時に夏と冬のボーナス全額(60万円)で、草間彌生さんの《無限の水玉》(1953年)を手に入れたのが最初です。
当時、河田町にあったフジテレビ・ギャラリー(SCAI THE BATHHOUSE 白石さん、オオタファインアーツ 大田さん達を輩出したギャラリー)で購入しました。
よろしければ最初のコレクションはいくらで購入したか、またその作品の今の価値を教えてくださいますか?
現在ですと、多分1千数百万円から2千万円くらいはするでしょうかね。
コロナ禍でも草間さんの作品は世界的な値上がり傾向にあるため、もう少し高くなっているかもしれません。
現代アートをコレクションする時に何を一番の購入指標に据えていますか?そしてそれはなぜですか?
周到なマーケティングによって価値がつくられた作品には、(その商才には敬服しますが、作品自体には)全く興味がありません。
固有名詞は営業妨害になるので、挙げられませんが(笑)。
美術史上で長く生き続ける可能性を有している作品にしか、興味が湧きません。
この時代に生まれるべくして生み出された同時代性を扱ったコンセプトと、チャレンジングな表現形態、手法が織り成す作品だけをコレクションし続けています。
現代アートをコレクションするために必要な情報などをどこで得ることが多いですか?
世界中に拡がる人的ネットワークを利用しての直接的な情報交換が、主たる方法です。
アーティスト、ギャラリスト、キュレーターそして、ライバルでもあり友人でもある各国のコレクター達です。
今まで購入した作品でいちばんのお気に入りとその理由があれば教えてください。
今までコレクションしてきた全ての作品が、有名無名を問わず、私にとってかけがえのない宝物です。
ですから、(病気や事故、経済的事情などで)家族や私自身の命が危なくならない限り、どの作品も手放したくはないんです。
幸いにも、今まで一度も売却することなくコレクションを続けられていますが。
今まで購入した作品で購入したのを少しでも後悔しているような作品はありますか?またその理由があれば教えてください。
これが、幸いなことに一点もないんですよ。
現代アートを購入する時、必ず何を確認してから買いますか?また、いいコレクションの法則などあるのでしょうか?
大切なのは、普段からの勉強というか研究でしょうか。
勿論、世界中のアーティストや展覧会に関する情報も、常に気をつけてチェックしています。しかし、良い作品を手に入れるには、家でいったら土台にあたる美術史、美学、思想(哲学)などの知識が非常に重要であると思っています。
あとは、世界中に頼りになる友人をつくる社交性でしょうか(笑)。
もう一点、好きではない作品を買うのは避けたいですね。
妥協は厳禁です。どうしても欲しくてたまらない作品以外は、長く愛せないんじゃないでしょうか。
現代アートのコレクションをしてみたいと考えている初心者にお勧めできる現代アートに出会える場所などありますか?
コロナ禍が収束したら、アートバーゼル香港のような国際的なアートフェアがお薦めですね。
例え良い作品との出会いがなくても、美味しい食事、ショッピングの楽しみと、家族(あるいは彼女、彼氏)サービスにもなるので。
最後に、現代アートをコレクションするとは人生にとって、またアート界にとってどういう意味があるのでしょう?
良い作品は、私たちの人生を豊かにしてくれます。
30歳で購入した作品を40代、50代で眺めると違って見えます。作品は変ることがありませんので、それを見ている私たち自身が変化しているわけです。優れた作品は、それを鏡のように映し出すのです。
これは素晴らしい作品を手に入れ、長く手元に置いているコレクターだけの特権です。
宮津大輔さんの新刊が発売されました。
新型コロナはアートをどう変えるか (光文社新書)
宮津大輔(みやつだいすけ)
アート・コレクター、横浜美術大学 学長1963年東京都出身。広告代理店、上場企業の広報、人事管理職、大学教授を経て現職。1994年以来企業に勤めながら収集したコレクションや、アーティストと共同で建設した自宅が、国内外で広く紹介される。台北當代藝術館(台湾・台北)の大規模なコレクション展(2011 年)や、笠間日動美術館とのユニークなコラボレーション展(2019年)などが話題となった。『新型コロナはアートをどう変えるか』『アート×テクノロジーの時代』(以上、光文社新書)『現代アート経済学Ⅱ-脱石油・AI・仮想通貨時代のアート』(ウェイツ)や『定年後の稼ぎ力』(日経BP)、など著書や寄稿多数。