VOL.10 TOMIO KOYAMA

アートをコレクションしている方々をインタビューするCOLLECTOR 、VOL.10でお送りするのはギャラリィストの小山登美夫さんです。ギャラリーを始めたきっかけやアートをコレクションすることなどについて語ってもらいました。

アートの世界に入ったきっかけは?

田辺

今日は宜しくお願いします。

小山

はい、宜しくお願いします。

田辺

小山さんともお付き合いは長いですがそもそもアートの世界に入られたキッカケというのは?

小山

キッカケ?

田辺

好きで?

小山

もともとアートを見るのは好きだったんですけど、ご存知のように落語も好きだし、映画も好きだし、演劇も好きだし。

田辺

はい。

小山

演劇とか映画にもいきたかったんですけど、たまたま僕の先輩が西村画廊で働いていたんです。

それでバイト先に遊びに行ったんです。

安倍さんていう方だったんですけど、その人のところに遊びに行ったら西村さんが明日からバイト来ない?

って言われて、次の日にはいけたのかな分かんないけどそのあたりでバイトを始めて。

それからずっとですよ。

田辺

あーなるほど。

小山

単純にいってアートの世界に入ったのはそんなことががキッカケなんです!

田辺

なるほど!

小山

本当に!それで、西村画廊って舟越桂さんとか中西夏之さんとか、僕が凄い好きな作家がいた画廊だったんで。

あとほら、ホックニーとかリチャード・ハミルトンもいるじゃないですか。

田辺

はいはい。

小山

そういったことで、あ!画廊って面白いやってことで入ったんです。

本当に学生の、5年目の学生してたんですね、留年してたんで。

で、もう授業なんてないから週に3日とか4日くらい?

僕銀座の8丁目のクラブで夜バイトやってたんで西村画廊には夜の5時半くらいまでいたのかな。

田辺

あー、それでそれから銀座に行ったっていう。

小山

それから銀座でバイト。

田辺

そうですか。

小山

そう!

それがいわゆる業界に入ったキッカケです。

田辺

じゃあ、銀座の画廊から。

小山

そう、それで西村画廊を辞めるときに、そのときお客さんだった三潴さんに「辞めるんだったら白石君ところ行けよ」って言われて、白石さんを紹介されて白石さんところに働きに行って。

田辺

あーそうだったんですか。

小山

そう、で、僕がアメリカ行ったことがなかったんで「アメリカに行ってみたいんです」って言って1ヶ月くらいアメリカ旅行して、帰って白石さんところにご挨拶に行ったらもうその日から白石さんのところで働き始めたんです。

田辺

そうだったんですね。

小山

そう!表参道にあった東高現代美術館でした。それから谷中と、6年半、白石さんにお世話になりましたかね。

田辺

じゃあ、ギャラリーを自分でやりたいと思ったのは白石さんのところである程度やった後?

小山

白石さんところで村上さんとか奈良さんをやったんです。私がスタッフの時に。

田辺

そうですね。

小山

それで僕、中間管理職みたいになっちゃって、ほら、昔は彼らの作品も安かったから、いくら売れても経費カバーするだけでも大変で。

白石さんがやってることが大きいから割に合わなかったんです。

でも、自由にいろんなことやらせてもらいましたね、感謝です。

それから、自分で小さいギャラリーをやろうって思った。

田辺

あーそうだったんですね。

小山

そう、それが佐賀町。

田辺

あ、佐賀町!

小山

そう、佐賀町ですよ、6メートル6メートル。

田辺

あー行きました行きました。

じゃあ、わりとこう、ギャラリーをやりたい!とか言うよりも流れみたいな?

小山

そう、流れ流れ。

田辺

じゃあ、まあ偶然?

小山

流れだけどギャラリーは昔から思ってたんだけど、ほら、毎回毎回展示が変わるじゃないですか。

田辺

はいはい。

小山

アーティストとも話すじゃないですか、で、お客さんとも話すじゃないですか、で、お客さんも大体美術が好きじゃないですか、そして、詳しい!

田辺

はいはい。

小山

で、そん中に映画の人とかもいたりして、そう言った意味では結構こう面白いんですよ。

田辺

なるほど!

小山

場所としては!

で、それが僕的にはすごく面白い、現場?アーティストに一番近くて。

で、いつもこれ話しちゃうんだけど、西村さんで横尾さんの展覧会があって、彫刻をちょっと調整するんで画廊の地下で色々ネオンのやつをやってたんですね。

それで、途中で夕飯どきになっちゃって、味噌ラーメンかなんかを近くの中華料理屋で出前とって、横尾さんと一緒に食べたんです。

地下のスペースで!

横尾忠則さんですよ!

田辺

うーん。

小山

22か3くらいの時ですよ、何話したかなんて忘れてますよ、でもそういうことがあるのが嬉しかったです。

田辺

確かにね~

普通はなかなかないですよね。

小山

そう!アーティストの中西夏之さんに飲みに連れて行ってもらったりとか、そういったこともあったし、それはたまらなかったですね。

田辺

なるほど。

なんかでも、その三潴さんが白石さん紹介してくれたりとかタイミングがね?導きがあったような。

小山

そう、タイミングが良かったんですよ。

田辺

まあ、村上さんと奈良さんのご担当で。

小山

担当というより俺が無理やり白石さんにやらせちゃったような感じだったから。

田辺

あ、そうなんですね。

小山

申し訳ないって、自分で始めた。

田辺

でも、その後あの二人が大ブレークして!

小山

そうなんですよ!そうそう、それは凄いですよね~

田辺

ですね!

 

では、ここからアートの話ですが。

アートを見ることとアートを買ってみるっていうのはどう意味があるかっていうのは、ただ見るのと買う気で見るのって違ってきたりするじゃないですか。

小山

アートを見る。

たとえば、ゴッホ展とか見るじゃないですか。

田辺

はいはい。

小山

子供の頃から見ることはしますよね。

でも買うっていう風にはいかないじゃないですか。

田辺

そうですね。

小山

買うっていうのはやっぱりえっと、買うお金っていうのは何らかの労働で得たお金じゃないですか。

田辺

はいはい。

小山

で、そのお金でアーティストの作品が面白いって思った時に買うわけじゃないですか。

田辺

なるほど。

小山

交換するわけじゃないですか。

田辺

そうですね。

小山

そのお金っていう社会的な価値と、もしかしたら社会的価値はないかもしれない作品を交換する。

それをすることによってそのアーティストをある意味で社会的なものにして行く。

これは凄くなんか、すごくいい作品ですよっていうのを言うだけじゃなくて、お金と交換することによって社会のなかで価値というものに変換させる。

田辺

なるほど。

小山

まあ、僕が職業的にそういうことをしているからかもしれないけど、そんな感じはありますよ。

田辺

そうですね。

小山

それでね、それがこう、どうなって行くのかっていうのが楽しみなんです。

田辺

そうですね。

小山

そのアーティストが。

田辺

ゴッホみたいにもう歴史にいる過去の価値の決まった人じゃなくて、生きてる作家さんで自分がいいと思った人が活躍して行くみたいな。

小山

そうです。

一番初めは大学生の時に山口奉宏君っていう彫刻家の木彫買ったの、2万円で。

田辺

え、いくつの時ですか?

小山

えーっと、22歳くらいの時。

大学いた時だから。

それが初めに買ったやつ。

田辺

へーそうなんですね、彫刻!

木の彫刻?

小山

木の彫刻!

今だに家にあります!

その後に西村さんに勤めていて、西村さんに怒られたんだけど、近くの違うギャラリーでリー・ウーファンのエッチングを買った。

田辺

あー、リー・ウーファン!

しぶいですね?

小山

そうそうそう!

リー・ウーファン!

田辺

で、じゃあ、小山さんはギャラリストですけど、コレクションするっていうのはどういうことでしょうか?

小山

コレクションっていうのは、いろんなことをやっているアーティストがいて表現するものを、自分の中にこう、なんていうのかな、自分がどこを面白いと思ったのかを、面白いと思うから買うわけじゃないですか、で、なぜこれが面白いと思ったのかを確認する作業みたいなことですか。

田辺

なるほどなるほど。

そうですね。

小山

それを持ってて、それがどうなって、その人がどういうものをこれから作って行くのかによっても自分の感性的なものとかいいと思った理由とかがクリアーになって行くじゃないですか。

それがすごく面白かった。

田辺

なるほど!

アートをコレクションする際に心がけたいポイントは?

田辺

コレクションする際に心がけたいポイントみたいな、何でしょう、色々あるかもしれないですが。

小山

いま、いろんなこというじゃない。

今流行りだからとか、高くなるとかさ、投資になるとか、いうじゃない?

高くなると自分で思うを作品を買ってもいいんだけど、少なくともそれが好きじゃないとダメっていう、もうそれだけです。

田辺

そうですね。

小山

それだけです!

田辺

そうですよね。

小山

もうその1点だけです!

これは儲かりそうだなってだけで買っちゃダメだし、だからやっぱりそれが好きで買って、更に高くなる、みんなに認めてもらう、その両方なきゃつまんない。

自分が買った作品が、高くならなかった時にさ、「失敗した!」って思わなきゃいいんです、本当に!

田辺

そうですよね。

小山

アーティストになんか責任全くないんだから。

田辺

そうですよね。

小山

自分が買うわけだから。

そこには責任はなくて、自分が好きだったら下がったって別に関係ない。

田辺

そうですね。

宮津大介さんに以前インタビューした時に宮津さんも買ったので悔やんでるものは1点もないって言ってました。全部好きで買ってるからって。

小山

それが大事ですよ!

それだけがね、それだけが全ての救いですよ。

田辺

なるほどね、そうですよね。

小山

うん、そう。

田辺

変な下心というか、違う心で買って、ね。

小山

そう、それはダメなんです。

田辺

そうですよね、そんなの馬鹿みたいですものね。

あの、この作品ですが、これはいつお買いになったんですか?

小山登美夫氏が最近気に入ってコレクションした作品。

小山

これはね、この間の僕の知り合いの杉本さんっていう方がコンペ(ART DEMOCRACY Inclusive Art Fest 2021 )みたいのをやられてて、これ、アウトサイダーアートって呼ばれる作品のコンペなんですけど、その時に展覧会をしたんですよ、トランクホテルで。

田辺

あ、トランクホテル!

小山

その時に買ったの。

田辺

あ、もう一目惚れみたいな。

小山

そう、一目惚れで。

すごく良かったんで買いました。

田辺

作家さんの名前は?

小山

これ、かつのぶっていう作家名で、平仮名で「かつのぶ」っていうんです。

アウトサイダーアートかどうかっていうのも全然関係なくて、作品としてすごくよかった。

田辺

うんうん

小山

これは、すごく面白いと思って買ったんです。

田辺

なんか不思議な力ありますね。

小山

そう、で結構ね、僕会ったこともないし、どんな人かも知らないし、多分29歳くらいの若いアーティストで大阪で制作してる。

どっかの、多分そういういわゆる作業場?

田辺

障害のある人たちの?

小山

そう、障害のある人たちの団体に所属されているみたいなんですけど作業がすごく遅いらしいんです。

田辺

じゃあ年に10点とか。

小山

うん、だからこのすごく丁寧なストロークとか、この絵を作って行く過程とか、そういうのってやっぱし見てると何となくわかるじゃないですか。

田辺

うん、わかりますね。

小山

で、その部分っていうのは、いわゆる僕らの絵の世界、いわゆる健常者って言われる世界とかそんなのもう関係ないって思うんです。

田辺

うんうん、そうですね。

小山

だからそういうカテゴリーも吹っ飛んで面白いものっていうのは買いたいなって感じです。

田辺

もちろんですよね。

小山

それで、なんかそれがさ、あれですよ、うん、で、アウトサイダーアートの人の作品だって、例えば僕らが健常者の作品を見てる時に「これは良い悪い」って言うじゃないですか、それと同じように言って良いと思うんだよね。

田辺

そうですよね。

小山

そう、別に「アートをつくる」こと自体が良いわけじゃないんだからさ。

田辺

そうですね。

小山

うん、そう、こう普通にこの作家はダメこの作家は良いって分けて良いと思うし。

彼なんかやっぱし、まあ、コンペってそう言うことかも知れないけど、そう言う点でこれはもう圧倒的に面白かった。

田辺

なんか、やっぱりー、何だろうなあ、作ることへの心の澱みがないのかなあ。

小山

そうですね、なんか、だからそう言った意味ではこれを作って何かこう、ほら、普通のいわゆる健常者って言われている人たちだと、なんか、成功とか、いろんなことが思い浮かぶけど、そう言うのがないのかも知れない。

田辺

ないですですね!

小山

だからそう言った意味でもすごい純粋な形っていうのもあるのかも知れない。

本人に会ったことないからわかんないんだけど。

小山氏が今後コレクションしたいと思う作品。

田辺

うんでもその可能性はありますよね。

で、今後なんか個人的にコレクションしたい作家とか、作品とかってあったりします?

それとも大体は一期一会っていうか、見てその時に感じる?

小山

なに?今後?

田辺

そう、良いなーと思ってる作家さんとか。

小山

いますよ、

田辺

いますか?

小山

すごい昔の歴史的人とかね。

田辺

例えば?

小山

いや、香月泰男とかね。

それね、まだ買ったことないんですよ。

田辺

へえ、僕は知らないなあ。

小山

香月泰男ってね、神奈川県立近代美術館でこの前展覧会終わったんですけど、すごい昔の人なんですよ。

ギャラリーとかオークション、いろいろなところで売り物が出たりするんですが、でも今んとこまだ買ってない。

そういう人を買いたいってずっと思うことはあったりします。

田辺

なるほどね。

小山

昔の人。

田辺

絵ですか?

小山

絵です、洋画。

あとはその、河井寛次郎っていう、これは今、近美(東京国立近代美術館)の民藝の展覧会見れば出てると思うんだけど、その人のものはずっと買いたいと思ってるんだけど、なかなか良いものに出会えない。

田辺

あーなるほど。

小山

あとは、良いものがあっても高すぎるとかね。

田辺

あーはいはい。

小山

そう、そう言ったことで、買えないってこともあるので。

そこを何とか買いたいなって、思うものもあったりする。

田辺

なるほどね。

小山

だから若い作家のものは本当に見て「あ、いいな!」って思ったら買えるけど、そういったのはもう死んだ方なので、考えていろんなものを見て、いろんな人に相談して、どれを選ぶかっていうのは結構大変ですね。

田辺

まあ、でも面白くもある。

小山

面白くもありますね。

田辺

日本人の作家ばっかりですか?海外は?

小山

海外は、結構、海外も買いたいものはいっぱいあるじゃないですか。

サイ・トゥオンブリーとか買いたいですよ!

無理じゃないですか!笑

田辺

無理ですね、ははは!

小山

でもね、版画は僕持ってるんですよ。

版画は持ってんだけどもう、ドローイングとか絶対買えないから、それは買いたいなとは思う。

田辺

なるほどね、トゥオンブリーは本当、孤高の作家ですもんねー。

小山

トゥオンブリーはすごく良いですよ。

田辺

ね、なんか一線を画してる存在。

うーん、なるほど。

小山

そういうのはあります。

田辺

なるほど、よく分かりました!

今回は貴重なお話をありがとうございました!

小山

ありがとうございます!

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