FUMIYART

1998年、元チェッカーズで当時「TRUELOVE」などのヒットソングで人気絶頂の歌手、藤井フミヤのアーティストとしての作品集「FUMIYART」が出版された。

自分は1980年代後半まだフミヤがチェッカーズにいた頃にニューヨークに仕事できた際に共通の友人を通じて知り合い年も同じこともありそれ以降フミヤと親交を深めていたのだ。

フミヤがアート作品を作り始めたのは1990年、当時の最先端だったマックのコンピューターを部屋に置くと格好いいかなくらいがその始まりだったという。

なんの知識もないままに「Macintosh II FX」を触り始めたフミヤはフォトショオップで画像をスキャンして加工する面白さから完全にマックにハマってしまったのだった。

その後、仕事の連載で対談の相手を毎回CGで描いたりなどしているうちに少しずつ技術が向上していったのだ。

自分のはCGなどと呼べるレベルではないとフミヤは言うが内なる思いや美的感覚を表現できているという点では立派なCGアーティストだと思う。

その後、ただ単にイメージを作ることからコンセプトを持った作品作りへとシフトしていったフミヤは1990年前半に「2000年のポスター」という近未来のポスターをコンセプトにした作品を作り始める。

ちょうどその頃だろうか、当時ニューヨークに住んでいた自分は日本に帰るとフミヤの家で酒をちびちびやりながら夜遅くまで一緒にコンピューターに夢中になっていた。

その後、未来の建築がコンセプトの作品やコンピューターがマスタベーションしたらという奇抜なコンセプトの作品などをシリーズで作ったフミヤは自らのCGアートを「FUMIYART」と名付けて作品シリーズが完成するごとに展覧会も開催した。

展覧会には大人気歌手の藤井フミヤのアート展ということでファンはもちろんクリエイターなどが長蛇の列を作って押し寄せたのだった。

そしてこの作品集「FUMIYART」が発売されたのだがそこで一旦フミヤはCGアートから歌手の活動の方に専念することを宣言した。

「きっと次にアートをやる時はデジタルアートではなく手で描くアナログアートになるだろう」と予言的な言葉を残してCGアートから離れたのである。

その言葉通り、2019年になる頃に新しいアナログアートの「FUMIYART」を発表したのだが絵の具や色鉛筆など様々な方法で描かれた作品のクオリティーは素晴らしく目を見張るものがあった。

自分は「FUMIYART」の最初の作品集に「この恐るべき男、藤井フミヤ」という文章を書かせてもらったのだけどやはりいまだに恐ろしい男だったのだ。

8月22日まで浜松市美術館で「Fumiyart 2021デジタルとアナログで創造する藤井フミヤ展」が開催されている。

「多様な想像新世界」というサブタイトル通り実にさまざまな世界観と想像力、表現力を持つアーティスト藤井フミヤの展覧会であり新作と今までの作品を集めた回顧展になっている。

作品の年代やジャンルごとに色分けされた部屋に新作と今までの作品が展示された見事な展覧会だった。

歌手で大成功してもなお創造力をデジタルアートやアナログアートへと展開していくフミヤの多産な活動を身近で見ることが出来てアート好きとしては実にラッキーだったと感じている。

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