DONALD BAECHLERについて。

都築響一さんは写真家であり編集者、そしてジャーナリストであるがマガジンハウスで編集者をしていた自分の大先輩でもある。

彼は他の人が取り上げないような独特な視点で編集した様々な写真集や作品集を数多く出版していて素晴らしい編集者でありジャーナリストだ。

その都築さんが1980年代後半に当時話題の現代アーティストにフォーカスした作品集ArTRANDOMを全102巻を1989年から1992年の間に出版した。

このサイトのタイトルであるARTRANDOMもここから拝借したようなものなのだがこの作品集は今のように情報が瞬時に世界を駆け巡るような時代ではなかった時代には画期的だった。

日本ではまだよく知られぬ現代アートの作家の作品を作品集にして見せるというコンセプトで当時の優れた新人作家の作品を見ることが出来たのだった。

第一巻の大竹伸朗から始まりセント・クレア・セミン、レイ・スミス、田原桂一、ピーター・ナギ、ケニー・シャーフ、ジュリアン・シュナーベル、ロス・ブレックナー、シンディー・シャーマン、サンドロ・キーア、ジョージ・コンド、ジャン・ミッシェル・バスキア、など錚々たる作家たちの作品が紹介された。

僕も今でも数冊持っているが最も思い出深いのはドナルド・バチュラーという作家の本でこの作品集には当時天才的にゆるくていい感じの絵を描くアーティストのドナルド・バチュラーの作品がリサ・リバーマンによる最小限の紹介テキストで紹介されていた。

ドナルド・バチュラーはアメリカの作家でなんというか子供の絵のようなあるいは障害者の描く絵のような不思議な絵を描く作家で僕は一目惚れしてしまった。

その当時、なぜか母親から急に現代アートを買いなさいとお金が仕送りされて現代アートを買わなくてはならなくなり僕は当時まだSOHOのブロードウェイにあったポール・カズミン・ギャラリーに向かった。

父親がデヴィッド・ホックニーの売買で財を成したポール・カズミンはブロードウェイにギャラリーを開けたばかりだったがドナルド.バチュラーの所属ギャラリーだったのだ。

僕は迷った末にチューリップの花の絵と人物の顔がたくさん描かれたコラージュ的な作品を買った。

作品は母親に送ったのだが顔がある作品が占い師に良くないと言われたと言って僕にあげると言われ結局作品は僕が所有することとなった。

その後、ドナルド・バチュラーの作品はアートフェアなんかでも頻繁に見かけるがどういうことか作品の価値が一向に上がらなくてそんなことならドナルド・バチュラー2点を買うお金でバスキア1点でも買っていたら今頃はさぞ安泰だっただろうと思ったりもする。

しかし、あれから30年余り、顔の絵は売ってしまったがチューリップの絵はまだ手元にあるしあの時に買ってよかったと思う。

なんでかわからないがあの頃に出た作家にしてはウォーホルなんかとも交遊があったのにもかかわらずどこかで道を踏み外したのか作品の価値はあまり上がらなかったが好きな作家には違いないし独特のゆるい感じの絵には今も癒やされるのだった。

DONALD BAECHLER