BLACK PAINTING

もうどのくらいのお付き合いになるだろう、ヒロ杉山さんはアートディレクターとしてEnlightenmentを率い、また自身はアーティストとしても作品を発表してきたマルチな才能の作家である。

アートの他に、アートディレクションもするし、有名人のポスターのグラフィックデザインはもちろん、かなり早い時期からビデオを編集したVJ作品なんかも発表したりしてきた。

とにかく、多岐に渡りセンスの良い方で様々なスタイルを持ち合わせているのだが、僕としてはどれも良いので、どれがヒロさんのアーティストとしての代表作なのかが今ひとつ分かりにくいという印象はあった。

そんなヒロさんが2019年頃から突如として誰でも見たことのある名画を黒く塗りつぶしたブラックペインティングなる絵画作品を描き始めた。

最初に見たのはゴッホのひまわりシリーズや鉢植えの植物を黒く塗ったシリーズで渋谷のWATOWAギャラリーだったと思うが、インパクトというか存在感は衝撃的だった。

その場で撮影した作品の写真をアートコレクターのクライアントに送ったところ画像だけで速攻で2枚お買い上げになったほどである。

その黒く塗りつぶされた名画を見ていて、今まで実に様々な表現に挑戦してきたヒロさんが一つの決定的な答えを発見したんではないかと直感した。

その後もヒロさんはブラックペインティングの可能性を広げるべくピカソからアメコミのキャラ、印象派からポップアート、現代アートまで幅広いアートのイメージを引用した作品を作り始めた。

それらはただ単に被写体を黒く塗りつぶして描くのではなく、背景にも独特なテクスチャーを施し、黒い部分はモデリングペーストのような素材を用いて極端な盛り上がりをつけたマチエールで黒の中にも絵の表情が読み解けるような表現になっていた。

遂にこれだ!という表現を編み出したヒロさんは2022年のアートフェア・トウキョウにてギャラリー・ターゲットで大作を含むブラックペィンティングのシリーズを大々的に発表して見事に完売する。

そして2022年7月、休む間もなく今度は代官山にできた新しいスペース、Lurf MUSEUMにて「Monochrome Colors」というタイトルの大規模な展覧会を開催するまでに至ったのだった。

そこには最初に見て衝撃を受けたひまわりシリーズやその他の過去の作品と一緒に新作としてフランシス・ベーコンの3部作やサイ・トゥオンブリーの作品、また、今のご時世を反映してか、反戦を訴えるピカソの代表作ゲルニカまでが展示された。

実に圧巻の展覧会だったのだが、ヒロさんが長年培ってきたアート全般への深い知識と造詣、作品の完成度を確実にしている揺るぎないテクニックが余すところなく表されていた。

どの絵画を対象に選ぶか、そしてその絵画のエッセンスを黒一色の中でマチエールも含めてどう表現すれば一番良いかなど、非常にセンスが問われる作品表現なのだが、それを可能にするヒロさんのセンスの良さには驚かざるおえない。

今後もきっと様々な表現にチャレンジしていく人だと思うしそれも楽しみだけれど、この黒い絵画シリーズに関していえば、もうすっかりクラシックとして定着したなと感じさせてくれる展覧会である。

最初見た時に衝撃を受けたゴッホのひまわりのブラックペインティング。

フランシス・ベーコンだが、黒く塗りつぶすためにどの作品を選ぶかはセンスが必要だ。

ロシアによるウクライナ侵攻の今、戦争の惨さを描いたゲルニカを描いた意味は大きい。

Lurf MUSEUMで開催されたレセプションには久しぶりにたくさんの人が集まった。

ブラックペインティングに行き着くまでの様々な表現の試みが見て取れる作品群。

最晩年のピカソを支えた最後にして最愛の妻ジャクリーヌの肖像もどこを塗りつぶしてどこを残すといった描き方にセンスが光る。

近代アートから現代アートまでヒロさんのアートへの造詣は深く、アートをよく知っているからこそこういった作品を作ることができるのだ。

今回僕が個人的に一番だと思ったトゥオンブリーの作品だが、なんか、黒塗りに実に自然にトゥオンブリーの絵がハマっている感がたまらない。

ブラックペインティングや過去の作品のTシャツや作品集、スケートボードなども売っていた。

Lurf MUSEUM