NOT ART BUT TREASURE VOL.3

美術ジャーナリストの鈴木芳雄氏がアートなお宝を紹介する
「作品じゃないけどお宝です」

VOL.3横尾忠則の少年マガジンです。

 

『少年マガジン』(講談社)1970年5月31日号

 

『少年マガジン』(講談社)は1959年3月17日の創刊だから、2021年は62年目。

数々の名作を生んできた。

その長い歴史の中で、現代美術家の横尾忠則さんが表紙を手がけた号が9冊だけある。

1970年の50冊あまりの中の9冊で、この年は3月から9月まで大阪で万博が開催された。

11月には作家の三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊駐屯地(当時)で割腹自殺をはかった。

横尾さんから聞いた話によると、当時の編集長だった内田勝さん(故人)が直々に依頼に来たのだという。

横尾さんはその少し前に交通事故にあったりして、おおごとにはならなかったけれど、しばらく休筆宣言をしていたそうである。

それでいったんは断ろうとしたものの、できるだけ手数をかけないような仕事なら、ということで引き受けたのだそうだ。

最初の号はカバーデイト5月24日号の22号。

ちばてつや作の人気マンガ「あしたのジョー」のモノクロームだったコマに赤と黄色を基調とした色指定をしている。ロゴは真っ青。

そして、宿敵だった力石徹に破れてダウンしている矢吹丈に吹き出しをつけて「創刊六〇〇号記念超大号」と言わせている。

 

『少年マガジン』(講談社)1970年5月24日号

 

次の5月31日号(23号)の表紙は「あしたのジョー」と人気を二分していた『巨人の星』(原作:梶原一騎 作画:川崎のぼる)の主人公、星飛雄馬(トップの画像)。

今度は墨一色、モノクロームである。

表紙だからカラー印刷なのに。

この号は巻頭のカラー特別企画が「横尾忠則の世界」で、16ページにわたって横尾さんの特集になっていて、作品や本人が登場している。

ただし、16ページのうち6ページは横尾さんがよく描く「舌出し」の口だけが黒地に塗られたページの真ん中にぽつんと描かれているだけ。

なんとも大胆というか、もったいないというか。

この「舌出し」のイラストは最近、横尾さんオリジナルのマスクに描かれ、ちょっとぎょっとさせる。

しかも特集の始まる1ページめは真っ黒く塗られているだけだ。

その真っ黒な1ページに横尾さんにサインをもらっておいた。

 

この真っ黒ページが特集の始まり。

これをめくると、「売国」というポスターの図版

次の24号、6月7日号は連載中のマンガ、影丸譲也「ワル」のカットに色指定をし、また少年マガジンのロゴをカラフルに仕立てて、表紙にした。

 

『少年マガジン』(講談社)1970年6月7日号

 

つづく25号、6月14日号はやはり連載中だった石森章太郎(のちの石ノ森章太郎)「リュウの道」から引用している。

 

『少年マガジン』(講談社)1970年6月14日号

 

26号から33号までは横尾さんの表紙はお休みで、通常のスタッフが表紙を担当している。

そしてまた、34号から38号の5冊を横尾さんが手がけているが、今度は連載のマンガからの引用ではなく、映画のスティルをコラージュしたり、絵本や幽霊画、映画ポスターなど既存のグラフィックをそのまま流用して表紙にしている。

 

(左上)『少年マガジン』(講談社)1970年8月16日号:1958年の映画『吸血鬼ドラキュラ』のスティル写真をコラージュしている。
(右上)『少年マガジン』(講談社)1970年8月23日号:齋藤五百枝が描いた講談社繪本『桃太郎』からの引用。
(左下)『少年マガジン』(講談社)1970年8月30日号:香朝楼こと三代目 歌川国貞による幽霊画を使っている。
(右下)『少年マガジン』(講談社)1970年9月6日号:東宝映画『決戦! 南海の大怪獣』のポスターをそのまま表紙に。

 

そして、最後の号が38号、9月13日号で手塚治虫の名作「鉄腕アトム」が表紙を飾っている。

だがもちろん「鉄腕アトム」が連載されたのは『少年マガジン』ではなく、『少年』(光文社)である。

このマンガが掲載されているという意味ではなく、マンガのアイコン的に「鉄腕アトム」の図版を使っているということだろう。

『少年マガジン』(講談社)1970年9月13日号(38号)

 

これら、横尾忠則表紙構成の『少年マガジン』は以前は、まんだらけや中野書店(神保町)あたりで、1冊800円くらいから2,000円くらいで買えたのだが、今ではだいぶ見つかりにくくなってきてるし、あっても5,000円くらいする号もある。見つけたら、買っておこう。

 

  

 TADANORI YOKOO

 

 

 

プロフィール:
鈴木芳雄|Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。
明治学院大学・愛知県立芸術大学非常勤講師。
雑誌「ブルータス」元・副編集長(フクヘン)。
共編著に『カルティエ、時の結晶』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。
雑誌「ブルータス」「婦人画報」「ハーパーズバザー」などに寄稿。