2021年 1月 31日NOT ART BUT TREASURE VOL.5 美術ジャーナリストの鈴木芳雄氏がアートなお宝を紹介する「作品じゃないけどお宝です」 VOL.5 は「レオナルドの聖母子像のポラロイド」です。 ロシア、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館には2回、取材に行った。 1回目は日本テレビ主催の「エルミタージュ美術館展」の取材で脳科学者の茂木健一郎さんと。2回目はその数年後、ブルータスの西洋絵画特集でレオナルド・ダ・ヴィンチの聖母子像を撮影しに行ったとき。 ↑ブルータス2007年4月15日号「西洋美術を100%楽しむ方法。」 当然、2回目はどの部屋にどういうふうに絵が展示されているかわかってたので、こういうふうに撮ろうというヴィジョンがあった。 エルミタージュ美術館には《ブノワの聖母》と《リッタの聖母》というレオナルド・ダ・ヴィンチによる2つの聖母子像がある。それが自然光の入る部屋の窓際にあった。(現在は展示場所が変わったようだ) しかも横並びではなくて、窓に垂直に。つまり2つの絵は平行に。なので、こういう写真を撮った。 これは実際の雑誌の誌面だが、手前の《ブノワの聖母》にも、奥の《リッタの聖母》にもピントが合うように工夫してある。2カットに分けて撮影して、合成しているのだ。 デジタル写真の時代にはどうってことないけれども、このときはまだフィルムの時代。合成のクオリティは印刷所の作業にかかっていた。 最終的には見開きの間にブックインブックを入れたので、それを取り出さないと、見開き写真として見れないのだけれど。 フィルム時代は現像が上がるまでどんな写真になるかわからなかったかというとそんなことはなくて、本番のフィルムで撮影する前後にポラロイドフィルムを使って撮影する。 (そのうち「ポラロイドって何ですか?」という質問が来るかもしれない。「チェキみたいなもんです(逆だけど)」と答えようか。でも、そのうち「チェキって何ですか?」という質問も来るかもしれない。そのときはもうどうでもいい) フォトグラファーは本番フィルム用のカメラボディとポラロイド用のボディの両方を持っていた。 ポラロイド写真は本番フィルムの現像が上がったらもういらなくなってしまうので多くのフォトグラファーや編集者は捨ててしまうかもしれないけれど、僕は捨てられずにとってある。フィルムは出版社やフォトグラファーが保管するけれど、ポラロイドは編集者が保管する場合もある。 というわけでこの撮影では2つの聖母それぞれにピントを合わせたポラロイドが残った。その4枚をもらっておいた。折りたたみ線があるのはトリミングを考えたときの跡だ。 撮影してくれたのはパリ在住の写真家の小野祐次さん。彼はシュウゴアーツに所属するアーティストでもある。 エルミタージュ美術館にて。使用しているカメラはアサヒペンタックス6×7