POSSIBILITY OF PAINTING

アートは全般的に好きだが特に何が好きかと問われれば絵が好きである。

古典的な絵ならルーベンスも好きだしもちろんピカソは大好きな作家だ。

絵の具を筆などを使ってキャンバスの表面に塗るという行為によって絵は描かれるのだが描く時の筆使いや描き出される筆致というのを見るのが好きである。

目で見たものを脳が変換して絵の具を使い筆を用いて絵画作品として描き出してゆくという表現行為はたとえデジタルが主流になっても廃れることはないと思う。

なぜなら見たものを脳で変換して再現するという行為の中にこそ作家独自のインスピレーションを見るわけでそれはさまざまであり機械の様に予測もできない人間独自の表現世界だからである。

描くという行為において言えばルーベンスの時代は工房での絵画制作だったのでおそらく絵は共同作業的で生産されたのではないかと思う。

ルーベンスは成功した実業家でもあったので工房では彼が全てを仕切り背景や人物などを弟子たちが描き進めて最後のタッチの部分をルーベンスが筆を入れて彼独特の絵の雰囲気に仕上げる。

そんな共同作業によって数々の名画は生産され発注先のお城や貴族の家に納品されていったのではないか。

一方、同じ描くでもピカソは絵を全て自分で描いていたわけだが青の時代からキュビズム、晩年に至るまでにその絵は目まぐるしく変化していった。

今回なぜ絵の話がしたくなったかといえば絵画の可能性を非常に明快に感じさせてくれる作家の作品を見たからである。

天王洲アイルのKOTARO NUKAGAギャラリーにて1月29日まで開催中の森本啓太という若手作家の作品が素晴らしい。

風景と人物を描くのだがその表現力と表現技法のクオリティーの高さには目を見張るものがある。

そこに本当に存在するかの様な風景の奥行きや距離感、質感や光のあたり方、複雑であるのに調和した色彩と影の美しさなど絵の素晴らしさが画面の全てに凝縮され全体に広がっているのだ。

油絵具で描く油彩という技法は西洋で生まれて現在に至る技法でルーベンスもピカソも油絵具で絵を描いてきた。

森本啓太は油絵具の技法をしっかりと勉強して古典的な絵画などからも多くを学んだと聞くが確かに彼の油絵具のテクニックは素晴らしく、だからこそ油絵具で表現できる可能性の最大の表現力であの様な見事な絵画を描き出せているのだ。

油絵具は絵の具を油で溶いて使うのだが溶き油には種類もあり使う色によって油を変えるなど非常に奥深い世界なのだがしっかりと色に適した油で絵の具を溶いて描き重ねると色はより深みを持ち独特な生命力と存在感を持つ。

森本啓太の絵は、油絵具で描くことのできる絵画の表現力の可能性を追求する様な作品であり絵が好きな自分としては出会えて嬉しい絵画作品となったのだった。

KOTARO NUKAGA GALLERY