Around October
アートフェアやギャラリー巡りなどを紹介するTRAVELING FOR ART、今回は駒込にあるKAYOKOYUKIギャラリーにて西村有の絵画展「Around October」を紹介します。
展覧会のタイトルになっている「Around October」の10月という季節が作家の西村有さんは好きなのだそうで「うつろいやすく不安定な季節」と称します。
夏から秋、そして冬に移り変わる途中の曖昧な季節として10月を捉え、もう暑くもなくしかしまだ寒くもない10月に自らの表現との親和性を見出しているのかもしれません。
西村有さんの作品には日常の何気ない風景や人物、鳥、猫、果物、花など様々なものが描かれますが幾重にも塗り重なれた色彩は独特の透明感を保ったままま曖昧な輪郭をだけを留めて動きの途中のような不思議なリズムを醸し出すのです。
どこか懐かしいような誰にでも共通する遠い記憶の中の風景のような独特な世界に見るものは思わず引き込まれてしまうのです。
ものの外観を描くことによってその実体を捉えたいというのが作家の表現の意図のようでがぼんやりとしながらもモチーフの本質を鋭く描き出せるのは稀有な才能だと感じます。
今回の展覧会ではかなりの数の作品が出展されて中には今までとは異なる淡さではない色彩表現の絵画もありますが全てにおいて作家の表現に一貫性があるのは作家の物の見方やそれを描くことによって何を表現したいかという根幹の部分がぶれないからでしょう。
作品もかなり売れていましたがそれは曖昧な今の時代性そのものを非常によく表した作品に共鳴する人が多いからではないでしょうか。
木の枝や葉の合間から覗き込む鳥と思わず目があってしまうような作品は可愛らしいです。軽やかな筆さばきで描かれた作品は小さくても存在感があります。
首から上がブルーの男性の肖像ですが顔の部分が横に走るブラシストロークでぼやけたように見えます。独特な手法で絵に動きが出ています。
森の中を駆け抜けるイノシシを描いているのでしょうか、この絵も絵の具の上からブラシストロークで絵の具をぼかして独特な動きをつけています。
果物の絵と森の中を走る白い車の絵が美しい花とともにさりげなく展示されていました。こんな風にアートを生活の景色の中で楽しめたら素敵です。
レンガのような赤い色の背景に浮かび上がる花瓶とお花の絵ですがこの絵も横に流れるブラシストロークで曖昧な輪郭になっています。
青空に向けて真っ赤な風船を手放す風景ですが手放す手は風景に透けて見えます。遠い記憶の中の思い出を儚く描き留めたような絵ですが風船の赤い色だけがなぜかとても鮮烈なのです。
一番奥に赤い車、そして自転車、最も手前には通りすがりの猫、とても面白い構図ですがここでも横に走るブラシストロークでイメージはボケて描かれました。
テーブルの上にあるガラスの花瓶には一輪の花がいけられていますが花瓶の隣にティーバッグのような紐が垂れ下がったティーカップ、離れたところには果物と不思議な配置の静物画ですが、古典的な主題も個性的で現代的に描かれます。
グレーのバックに黒で描かれたのは木の枝でしょうか?小さくシンプルな作品ながら作家の描く独特な表現のエッセンスが詰まっています。